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sproutおぼえがき

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蟻鱒鳶ル

6月21日 金曜日
雨 やや涼しい


三田に、ひとりで何年もかけてコンクリートのビルを作っている人がいる。ビルの名前は蟻鱒鳶ルというんです。

という話はAさんから先月聞いた。
おもしろい!見に行きたい!と言って、Aさんがビルを訪ねるときに一緒に連れて行ってもらえることになった。

田町の駅から歩いて7、8分。
蟻鱒鳶ルは坂の途中の、立派な2つのマンションの隙間にあった。

蟻鱒鳶ルは「ありますとんびる」と読む。
作っているのは建築家の岡さんというひとだ。
岡さんは自宅となるこのコンクリートのビルを全部ひとりで作る。
シャベルひとつで地下を掘り、セルフビルドを実現する、コンクリートを少しずつ打ってつないでゆく「70センチ工法」というすごい技法も編み出した。

2005年に作りはじめたとのことなので、今年8年目。
地下1階、上は3階部分までの高さができている。
はしごや渡した板を使って、上から下まで見せてくれた。

ビルは頑丈で固そうで、たのもしくて親切な感じがした。
歯車みたいな装飾や、壁から突き出す上へと続く階段、コンクリートの板を横にして重ねあげた入道雲のような部分、天井にあけた穴など、胸おどるものをあげるときりがないが、意外なほど曲線が多くて、しかしその曲線の角はビシッとしているというところがいかにもコンクリートらしく、それが「たのもしくて親切な感じ」のもとのように思える。

ここを見るまで、「手作り」と「コンクリート」が結びつくなんて思いもよらなかったし、どちらかといえばコンクリートは、古くささやかなものを取り壊し、真新しく大きくつまらないものに変える側のものだと思っていた。
だけど、考えてみれば原料は石の粉だし、それを水や砂利で練ってつくるからその造形は変幻自在だ。建築家のあたまのなかを現実にかたちにしてくれる。
年数が経って古びても、コンクリートそれじたいは美しい。
だからもんだいはコンクリートを使うひと次第なんだってことが蟻鱒鳶ルを見ると実感できる。
なんだよコンクリート、超いいやつじゃん!!みたいな…。
自分で勝手につくった壁を自分で壊したようなことか…。

じっさいこのビルは200年保つと専門家に言われたらしい。
200年後、このあたりが、というかそもそも世界がどうなっているか見当もつかないが、このビルのある風景はその頃もきっと素敵だろう。それで今撮った写真が「廿一世紀東京百景:聖坂カラ建築中ノ蟻鱒鳶ルヲ望ム」みたいになるかもしれない。そうなってほしい。


まだ天井のできていない3階部分にあがって見渡すと、思いのほか目線が高くて、登り坂をこえたずいぶん遠くまで見通せる。
このビルができなければ人がみることはできなかった景色だ。

同じ高さに、道路をはさんで女子校の図書室が見える。
座ってこちらを見ている女子学生がいる。

もし私が中学生で、この学校に通っていたら、放課後毎日図書室からこの工事を眺めて、もしかしたらひとりで働いている名前も知らない岡さんに憧れていたかもしれないなあと思った。
中学校から高校まで6年間、工事は終わらないまま卒業していくことになるだろう。完成したらむしろ悲しいかもしれないな。切なくていいなあ。

などと思い、ハッと気付いた。
今、私たち女子2人で岡さんとここで談笑しているけれど、これ見たら気が気じゃないんじゃない?誰なの?!あの大人の女たちは!!

なんつって…(ゆかい)


帰り道、Aさんと「人に頼まないで自分でできるっていうことは自由だ」と話した。
その自由は、ちゃんとすべきところと、遊んでいい部分をわかっているからできる、知識も技術も学ぶ用意もあってこその自由。
自由を自分に許すこころの自由さや勇気も必要だけれど、技術はそれを可能にする。
ピアノを弾くのも、文章を書くのも、絵を描くのも、人に教えるのも、そこはみんな同じだと思った。
あとは愉快に作るのだ。


現物を見るのに夢中になって、写真は撮り忘れてしまった。
by titypusprout | 2013-06-22 00:43 | Comments(0)
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