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sproutおぼえがき

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竹内庸子さんの講演会

3月4日 水曜日 薄日 暖かい



うっかりして、雛飾りを出さないまま桃の節句が過ぎてしまった。


ちょっと前になるが、先月の28日に住んでいる町の図書館で講演会があったので行ってきた。
このことは、一緒に行った元同僚で友人のMさんもブログに書いていたので、どうしようか迷ったが、書いてしまおう。

講師は、「東京図書館制覇!」というブログをやっている竹内庸子さんでした。都内23区すべての図書館をまわって、そのひとつひとつに訪問記を書いている方です。
それだけでなく、図書館で行なわれているさまざまなイベントなどにも出かけていくし、館内の展示や企画、手作りの配布物など、いろんなことに気が付いて、図書館をめいいっぱい楽しみながら、それを発信し続けている。非常に精力的で希有な人です。

内容は、前半が、おもしろい取り組みをしている、建物がすばらしい、など、都内で行ってみる価値があると竹内さんがおすすめする図書館について、休憩をはさんで後半が、いわゆる地域館とよばれる、中・小規模の図書館でやっているさまざまな企画、イベントの紹介でした。

その後半で、びっくりしたことに、前の職場で自分が関わった企画が紹介された。

以前の職場で、私は図書館の新設準備という仕事をしていました。
新館準備係に配属された非常勤4人で、選書をしたり、館内のレイアウトを考えたりといった仕事のほかに、新図書館の広報という仕事もまかされていました。
というより勝手にやっていた。
というのは、新しい図書館が、どの駅からも遠く、その先は川(橋はない)、当然バスの終点(つまりどこにも繋がらない)という、最悪の立地条件にあったからです。
それまであったちいさな図書室が駅近の便利なところにあっただけに、このままでは文句しかでない!!どーすべ!?という危機感のもと、同僚のMさんが(上に無断で)考え出したのが、今回紹介された「お散歩MAP」でした。
私が絵を描いた。

そして開館初日に、それを大きくひきのばして印刷したものを「あなたのおすすめスポットを紹介してください」と書いて入口に掲示して、付箋とペンを置いておきました。来た人に勝手にペタペタ貼ってもらえるように。
そのあとで、付箋に書き込まれた情報を検証すべく、Mさんと自転車で近隣を回って写真を撮り、それをもとにMAPの改訂版を作ったのでした。

もともとこれは単発の企画ではなくて、なにしろ「図書館に行こう」と思って来ない限りは、近隣住民以外がうっかり通りかかる可能性が絶無みたいな場所にあるわけだから、ともかく宣伝せねば、「わざわざ行ってみっか」と思ってもらえるようなものを作らなくちゃと思ってあれこれしたうちのひとつです。
大人用、子ども用と紹介パンフレットを作り、図書館通信プレ号を作って駅や周辺施設にばらまいたりもした。

これらのアイデアは、全部Mさんが考えたもので、パンフレットも図書館通信も作ったのはほとんどMさんです。私は言われるままに絵を描いただけ。
しかし思えば、「ねえねえ、お散歩MAP作らない?いい感じのものをひとつよろしく!」という非常に雑なオーダーだった(笑)
でもさいわいMさんと私は「こんな感じのがいい」というイメージは共有できていた(と思った)ので、あとは勝手に作りました。
もともと地図が好きだし、町中で路上物件を見つけるのは趣味みたいなものだから、楽しい作業でした。
実際すごくおもしろい土地柄だったこともあって、Mさんの意図するものを形にはできたと思う。

Mさんは、自分はおもいつきだけだから、とよく言いますが、この一連の企画について、いまでもよかったなあと思うのは、それらひとつひとつが、すべて連結して繋がっていたことです。
MAPについても、当初は作った先のことまでは考えていませんでした。せっかくだから大きくして貼ろうよ、貼るなら地元の人にも聞いちゃおう、せっかくこんなに貼ってもらったんだから改訂しよう、というアイデアが玉突き的に生まれて、それを実際やっちゃえ!という瞬発力と自由があった。時間はまったくなかったから作業はぜんぶ家だったけど。
結局これらのことで何をしたかったかっていうと、できるだけ多くの人に知ってもらって、来てよかったと思ってほしいというのと、もうこんな場所なんだから(って住んでる人に超失礼ですが…)、いっそとことんローカルでいこう、つーかご近所に愛されたい!!という2つの気持ちがありました。

開館したあともその気持ちはずっと持っていて、残念ながら運営体制のルールでカウンターには出られなかったけれど、イベントなどの企画を立てるときはいつも「ここでしかできないこと」を意識してやっていました。

講演のなかで竹内さんは、「図書館はほんとうにひとつひとつ違う。図書館を訪ねているんだけれど、自分では一緒に東京巡りをしているつもり。」と言っていました。
他に紹介された企画も、町中の本に触れられるスポット(本屋、古本屋、ブックカフェetc)を紹介したすごい労作のブックマップや、商店街の店主たちがすすめる本の冊子(実際にそのお店に行くと特典があったりする!)、小学生の利用者の自由研究がきっかけになって、一緒に協力して作った図書館クイズなど、場所があって、人がいて、その偶然や必然がなくては生まれなかったようなものばかりで、そういうものの一つとしてお散歩MAPが紹介されたことはすごく嬉しかった。
そして共通するのは、自分たち以外の面白いものを持ってる人や場所の魅力をうまくつかって、それを見えるかたちにして出すっていう「編集」の目線みたいなところかな、と思いました。他力本願はすばらしい(笑)

いっぽうで、最近では毎週末どこかの図書館でイベントが行われているような感じで、図書館員の仕事のほとんどがイベント準備で占められてしまっている状況のところもあるようで、それはちがうだろと思う。
ビブリオバトルとか本の福袋などの人気の企画についても、こぞってうちもうちもと気が付けばいろんなところで開催されているようだけど、なんだかなあと思いながら、もやもやする気持ちの正体がつかめずにいました。
図書館業界ではずいぶん前から民営化が進んでいて、いくつもの自治体で業務を請け負っている大手の会社があるので、どこかではじめた成功事例は当然ノウハウも含め同社内でぱっと広がります。実際、上からの「ともかくなんかイベントしろ」という要求は非常に強いものがあるようで、同じ講師による講演会をいろんな自治体で開催しているというのも目につく。

だからなんだか嫌らしく思うのかなあ、と思ったりもしましたが、それだけではないような気がします。
このことを考え始めると、いつももうひとりの自分が、二番煎じの企画だって、その地域の人たちにとっては新しいものだし、企画する人が違えばそれぞれ違うものになるのだからいいじゃない、と言うのですが、それに反論する言葉は見つかりません。

イベントをすること自体は悪いことじゃない。それにいろんな企画をしている図書館は民営化されているところばかりというイメージになってしまっていますが、本当はそうではありません。
私たちが以前いてお散歩MAPをつくった図書館も直営だったし、竹内さんの講演会で何度も紹介されていた豊島区も直営を維持している自治体です。
民営でさまざまな企画をおこなっている図書館で、地元密着型でいい仕事しているなあと思うところもたくさんある。

たぶんその違いは、どうしてイベントをするのか、という大事なところを肝に据えてやっているかどうかなんだと思います。
イベントをやって、人を集めて、それは究極いったい何のためなのか。
私たちの図書館の「質」は、図書館員の「仕事」は、そうやってやってきた人を幸せにするか、これからの世界をちょっとはよくするだろうか。
なんだか話が大きくなってしまったけど、何か企画をたてるときに、それが図書館の幹の部分についての考えとちゃんと繋がっているか、ただ話題のイベントをうちもやろうよというくらいの気持ちでやっているのかというのは、やっぱり透けてみえる。
同じイベントをやるにしても、その規模は、やりかたは、テーマは。そして、年間を通してその図書館の企画を追っていくと、違いはよりくっきりとしてきます。
そして、図書館の根幹の仕事をきっちりやって、その上でイベントもやろうとしたら、出来る数はおのずと決まってくると思う。誰かに相当無理を強いない限りは。

実際、イベントの企画は楽しいです。
成功したときの喜びは大きいし、すごく「たいした」仕事をしている気になる。
民営のところなんかは特に、そういう「やりがい」や「承認欲求」みたいなのを会社にうまく利用されているんじゃないかという気持ちがすごくあります。
それと、最近はどこの図書館でも、カウンターにいる人はショートタイムやカウンター専門のスタッフで、上のほうの人は事務室で管理や企画準備ばかりしているという体制がすっかりできあがっていて、図書館員自体が、カウンターや配架は下っ端の仕事、気の利いた企画ができてうまく図書館を「回せる」人が上等、というような価値観を持ってしまっている、そういうなかでのイベント流行りという風潮には、強烈に「それ違う」と感じてしまいます。

講演の最後にも、指定管理についての質問が出ていましたが、竹内さんは多くを語らなかったけれど、やはりさまざまな方面から話を聞く機会があるようで、そういう難しさについてはご存知だと思いました。
個人的には、お話ぶりからいろんな取り組みをしている図書館=民営というイメージが強すぎてがーんと思う場面もありましたが、でも直営か民営かを頓着するのは竹内さんの趣旨ではないとも思う。
でも、こうしたさまざまな企画を生み出している人達がどんな待遇で働いていて、それが図書館を利用する側の賞賛や期待に果たして見合っているのかどうか、そういうひとことを期待してしまう自分もいました。


質問にもあがった、竹内さんの図書館を見るときのポイントというのが、いる人の様子、注意のポスターの文言、小説の並び順など、さすが伊達に200以上も図書館回ってないな…と思わせるものがあって、面白かったです。
私も図書館だましいは細部に宿ると思っているので、うんうんと思った。

最後にじまんをいっこすると、竹内さんが元職場の探訪記のなかで、「この図書館の棚はすっきりしているのにわかりやすい。なんでかなとおもったら、書架の見出し板が一般書は青地に白文字、参考図書は白地に赤文字、とコーナーによって変えてあるので、こっから別のセクション、と無意識にわかるのです。」というようなことを書いてくれていて、それは開館準備で備品を買うときに、ここにはこのサイズのこの色を使う、とあらかじめ意図してやったことだったので、すごくうれしかった。
そういう目で図書館を評価してくれる人がいるっていうのはありがたいことだなあと思いました。

今の職場で働きはじめて、もうすぐ1年になります。
来年度は小さなことからすこし手を動かしてみようかな。         
















by titypusprout | 2015-03-04 23:48
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